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朝日新聞福島版連載のコラムです。(H13年4月5日)

生きる

駄菓子づくり   目黒 勉さん 柳津町 91歳

手で昔のままこしゃえんだ

 
   俺(おれ)が話すごとは「ミミズの寝言」って題名がついている。ミミズは、世の中をひとっつも見ないで暮らしてる。そのミミズの寝言だから、何言ってもいい。俺の話はそんなもんだ。

 親父(おやじ)が「萬花(まんか)堂」とつけた。いくつぐらいで始めたんだかなぁ。大正の頃だな。昔はまだまだ種類があった。今は、節のいいときは、十品(としな)くらいやってる。

 昭和五十数年まで、行商して歩った。自転車で、冬は汽車で。年取ってはくるし、世の中変わっちまって、自転車で歩くような商売では、食えなくなっちまった。  俺は後継ぎがいねぇから、機械なの

買ったって何にもなんねぇ。全部、手で昔のままで、へらと鍋でやる。あんこも、買うとぜんぜん味が違うわけ。うちの本当の味は出ない。こしゃえ方によって、コロッと違う。だから、あんここしゃえは、ばぁさまには関係ねぇ。

 今、ご飯の支度にしても、電気だから同じわけなの。水加減だけ。本当のご飯の味ってゆうのは、ねぇわけなの。何でもそう。野菜だって、昔のようなこしゃえ方でなく、ハウスで、ただこしゃえればいいっつうだけで、こしゃえてっから、昔の味は全然ねぇわけだ。形ばっかり。作んのは夜中ばっか。飴こしゃえるときだけ、ばあさま起こす。

 今、本当のご飯の味ってゆうのは、ねぇわけなの。何でもそう。野菜だって、昔のようなこしゃえ方でなく、ハウスで、ただこしゃえればいいっつうだけで、こしゃえてっから、昔の味は全然ねぇわけだ。形ばっかり。

 パン焼くのは、ガスかま。ほかのは炭でやってる。炭買うより、電気やガスだと、うんと経済的になるわけ。ほんだげんちょ、俺はほとんど、昔のままやってる。あと、一貫目くらいの大きな、七輪を使う。その七輪がねぇんだ。俺が生きているうちに間に合うように、三つも四つも買っておっけんだ。古いもん集めんのも、楽じゃねぇ。ねぇだから。

 買いに来て、慣れた人は自分でお菓子入れんだ。そうすっと、余計に入れる人もいるし、少なく入れる人もいる。全部分がってるんだが、柳津は仏の里だから、いつでも穏やかに暮らしてんだ。元は十五貫(五六・二五キログラム)も、十六貫も背負って、汗かいて安く売ったりしてたのに、家で現金でお客様に売んだから、その気持ちだったら一割二割損したって、何でもねぇ。

 今年八十八、私たちの年よ
 駄菓子つくりの老夫婦
 日にち毎日 夜なべをかけて、
 作っても作ってもまだ足りぬ
 お客さん喜び いれどりみどり
 箱に詰めて 買っていく

 これは、俺が八十八の祝い事に書いた歌だ。「雪やこんこん」の歌に合わせで歌ってみろ。

(奥会津書房編集部)

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