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道なき道をたどり、途中出会った雷神様
=大沼郡三島町で |
それは、「神々の道」と呼ばれていた。
私の住む三島町早戸地区は、只見川沿いの湯の平と、山の中腹にある本村とに分かれている。湯の平の我が家からすぐの山を登ってゆくと、突然ぽっかりと目の前が開けて本村に出る。この小さな集落を囲む山の中に、二十三体の神様が祭られているという。その神々に通じる道をはじめて歩いた。昨年の晩秋のことだ。
「秋は山が盛んで恵みも多いが、道もわりぃから、無理すんなョ」という村の人の言葉どおり、山に一歩踏み込むと生い茂った草木で道らしきものはない。草をかき分け枝をくぐり岩をよじ登って、やっと小さな石の祠(ほこら)を見つけた。雷神様だ。森の中は日中でも薄暗く、心細くなってくる。はるか天上から差し込むわずかな光を頼りに、ようやく森を抜けたころ、あたりはすっかり夕闇に包まれていた。
「神様は あちこちにいっからな。道もいっぺぇあんだ。よその人にはわかんねぇべから、オレも一緒にお参りすっから」
神々の道は、方々に延びているらしい。同行してくれることになったおばさんの後ろについてゆくと、岩室や木立の
陰にひっそりと座る神々に出会う。祠や人の姿をした神々は赤や白の布で飾られ、足元には小さな菓子が供えられている。観音様、不動様、稲荷様・・、ひとつひとつ教えられながら森の奥に進んでゆくと、そそり立つ岩のくぼみに、色とりどりの布をまとった小さな石像がうずくまっていた。「お地蔵様、来ましたよ。孫たち守ってくんつぇよ」おばさんは深々と頭を下げ、手を合わせた。
「山さ入(へえ)るとき、山の神様んとこの枝折だって手さ挟んで、守ってくんつぇってお願いする。帰ってきたらありがとうございましたって頭下げてな。きのこや山菜採ってる間も神様が守ってくれる。だから春んなると村のみんなで神々の道刈りするだよ。草刈ってきれいにすんだ。神様の道だから」
村の入り口に戻ると、「女(おなご)が山さ入(へえ)ったきり出てこねぇ」と大騒ぎになっていた。神様に会いに来た、と言うと、とたんにみんなの顔がほころんだ。「今度はオレが一緒に行ってやっから」「神様喜んだべぇ、また来(こ)およ」
あれから半年。山の雪も消えた。間もなく神々の道刈りの季節である。
【写真・文 渡部 和(かず)】
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