南会津郡只見町新町地区に「スワヨリ」という行事がある。スワヨリとは、只見川に舟をつないでおくための綱をよること。綱はワラで作られるため、よく切れては流されたので、それで何本もよっておかなければならなかった。舟組をもつ新町地区では、冬の一日、当年の宿となった家にワラを持ち寄って集まり、スワヨリをした。そのとき、一緒にしめ縄もよった。
只見川をはさみ集落側に水神さま、対岸の柴倉山に山神さまが奉られている。水神さまは石のほこらでできていて、入り口にクリと杉の木があり、それにしめ縄が張られている。対岸にある山神さまはホオノキの古木で、直接しめ縄が巻かれている。しめ縄は、これに奉納するためのものだ。
舟はとうのむかしになくなり、今では永久橋がかかる。だからもうスワヨリは必要なくなってしまった。しかし、水神さまと山神さまは昔から変わらずに鎮座されている。そこで、今でもこの地区の人々は、毎年二月、日を決めて集会所に集まり、しめ縄をよっている。古老たちは、舟がなくなった今でもこの行事をスワヨリと呼ぶ。本来の意味とは違ってしまったが、この呼び名の方が水神さまに近しい。
当日は、早朝から全員でワラをすぐる。ワラは、茎の長いもち稲を使う。雪の上にすぐったワラがうずたかく積み上げられると、ワラを打つ人、よる人と手分けして行う。ワラ打ちは若い者、よる作業は年配のベテランがやる。大きなしめに垂れを付ける作業が一番やっかいな仕事だ。間隔を等しくとり、同じ向きにしなければならない。若い者は、手練の熟達者の仕事を見よう見まねで覚えていく。それが何代にもわたって受け継がれてきたのだ。できあがると、水神さまと山神さまに奉納し、一年間の水難防止と山中安全を祈願する。女たちは朝からソバをぶち、酒宴の用意をする。すべて終われば、その日の出来を自慢し合って、酒を酌み交わしながらやんやの騒ぎとなる。
山と川に支えられて生きてきた奥会津の人々。山川からさまざまな幸をさずけてもらっても、事故や災難には遭いたくないものだ。恵みへの感謝と危険への恐れ。いまでも人々は、山川の自然を素直にあがめる。スワヨリは、そんな人たちが自然の神々に捧げる信仰のあかしである。
【写真・文 新国 勇】
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