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朝日新聞福島版連載のコラムです。(H12年9月21日)

奥会津に棲む神々

雨ごい   無力さ知り 自然を敬う

雨が降る岩倉山頂=大沼郡三島町で
  「雨降れ!たもれやい!雨降れ!たもれやい!」

 ドンドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドンドン!ドンドンドン!

  岩倉山の頂に、祈りの言葉と太鼓の音が響きわたる。今も大沼郡三島町西方地区で続けられている雨ごいの儀式だ。

  標高約五百メートルの岩倉山頂には鬼子母神堂が建ち、朽ちかけた三十三観音石仏が座している。西方地区を一望するこの岩山は、私たちの暮らしと密接な関わりを持つ聖なる山である。「倉」には、神が坐すところという意味が込められているという。

  雨の降らない日々が長期にわたると、農作物への被害は甚大である。空を見上げては乾いた土を憂い、誰からともなく雨乞いが計画されはじめる。

  「今日で何日雨が降んねえべ」

  「誰か、雨ごいに行がねが」

  「雨ごいなのしたって、雨降るわけあんめぇ」

  「いやいや、岩倉山の鬼子母神さまは、昔から願い事かなえてくれんだぞ」

  「よし!行くべ」

  雨ごいには、昔は焼き飯(焼きにぎり)か、焼きもち(米だんごやそば団子を焼いたもの)をお供えに持っていったそうだが、私たちは今風に、袋菓子とワンカップを腰に下げ、太鼓を背負って頂上へと向かう。参道をゆっくりと一歩一歩、約三十分で到着する。鬼子母神さまにお供えを捧げ、声の限り祈り、太鼓を打ち響かせる。

  「雨ふれ!たもれやい!」「雨降れ!たもれやい!」

山の空気を揺るがす祈りの言葉と太鼓の響きは、次第に熱を帯びて天に届く心地がする。

  一日目。天候に変わりなし。

  二日目。交代の三名が山に登る。

  三日目。空に雲がかかりはじめる。さぁ、いよいよ雨が来るぞ、と一層の願いをこめて太鼓を打ち鳴らす。

  その夜、待望の雨が降った。

  願い事がかなったと喜ぶのは、自己満足に過ぎないかもしれないが、必ずお礼参りをすることになっている。みずからの無力さを知り、自然界の崇高な力に神々を見て祈ることは、人間にとって大切なことではないだろうか。

【文・写真 山内英夫】

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