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朝日新聞福島版連載のコラムです。(H12年9月28日)

奥会津に棲む神々

乙女の像   大蛇を防ぐ 平和の女神

松林の中から沼沢湖を見下ろす
「乙女の像」=大沼郡金山町で

 むかし、大沼郡金山町の沼沢湖に恐ろしい大蛇が棲(す)んでいて、村人は困っていた。時の領主佐原十郎義連(よしつら)が、その大蛇を退治してくれようと家来を五、六十人も連れて船や筏を作り、沼の中央に進んでいった。すると空がにわかにかきくもり、雷鳴がとどろいて大入道が現れ、義連以下みんな波にのみこまれた。

 やがて、荒波の中から苦し気にのたうつ大蛇が出てきたが、なんと大蛇の頭には刀をふりかざした義連がまたがっていた。家来ともども大蛇にのみこまれながらも、刀で大蛇の腹を切り裂いて出てきたのだ。かぶとにぬいつけておいた金の観音様が、義連を蛇毒から守ってくれた。その後、大蛇を埋めた場所に沼御前神社を建てておまつりした。

  この伝説を再現した「湖水祭り・大蛇退治」が八月第一日曜日に行われる。

  沼沢湖を見下ろす松林には、南会津郡田島町出身の細井良雄(広島市立大学芸術学部教授)の彫刻「乙女の像」がある。沼沢湖は森に囲まれた山中にあるが、大蛇の棲む自然を平和な森にするため、女神が必要だった。町では、二科展の文部大臣賞を受賞した「大地に生きる人・乙女」を購入し、一九八七年七月、除幕式が行った。

 今は亡くなられた斎藤清画伯や三坂耿一郎氏も参加され、「自分の作品がどこに据えられるかは重大なことだ。しかも沼沢湖の女神として人々から尊敬の眼で見守られる。彫刻家として細井さんは幸せだ。」と言われた。一部の人は周囲に柵を設け鎖をつけようと提案したが、細井さんは「彫刻は手で触れ、人間や自然と一体になってこそ存在価値がある。鎖や柵をつくることは心を閉ざすことになる」と言い、それ以後まったく自然のままでたたずんでいる。

  彫刻や仏像というのは木や石のうちはただの物体であるが、仏師や彫刻家によって命を吹き込まれると、祈りの対象となる。訪れる人々が自然に手を合わせるようになった。今は亡き母がここに立った時も、「ちょっと休ませてくなんしょ」と手を合わせて台に腰かけた。しばらくぶりに見た乙女の像は、にこやかに微笑んでいた。

  どこの村や町でも山の神の信仰がある。時代を超えて、ここ沼沢湖の松林に新たな信仰が生まれた。


【文・写真 村野井 幸雄】

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