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山道の奥にひっそりと立つ雷神様
=南会津郡舘岩村で |
一九九二年八月、南会津郡舘岩村の前沢集落を襲った激しい雷雨が、樹齢八百年といわれる大杉を倒した。村には、このような落雷の記録が、昔から各集落に残っている。そして各集落では、家や人に落雷があった日を「雷神様の祭りの日」としている。
昔、旧暦六月二十二日に貝原集落の一軒を雷が襲った。落雷によって柱が割れた様子を「雷神様がつめを立てて柱を昇っていった」と、昔の人は話していたという。石うすをひいていたから、その音につられて落ちたとも言っていたそうだ。
「昔の人は雷を、角があって怖い神様だど思ってたんだ。だがら、雷様落ちねぇでくんつぇよ・・って、毎年六月二十二日の祭にお参りに行った」と教えてくれた人の指さす方を見ると、小高い山の中腹に、ほかの木々より一段高く、赤松が二本立っている。その木の下に雷神様がまつってあるというのだ。
「あそこまで二十分くらいだ」と言われ歩き出した。曲がりくねった急な山道を登り、高い木々で薄暗くなった道の終点に、赤松にもたれかかるように立つ小さい石のほこらを見つけた。祭の時以外、人は来ないのだろう。倒れた木が道をふさいでいる。それ以上、近づいてはいけないような雰囲気さえあった。
この道は、雷神様に行くためだけの道だ。毎年祭の日の朝、雷神様までの山道の刈り払いをする。そして、太夫様に幣束(へいそく)を切ってもらい、お神酒を背負って登る。かつては村中で刈り払いをし、皆で登り、お参りした。そして、雷神様の前で飲んだり食べたりして、村休みの一日を過ごしていたそうだ。
落雷や雷雨は、一瞬にして家を焼き、丹精こめた田畑の作物に被害を与える恐ろしいものだった。だから村中で雷神様にお参りし、無事に過ごせますように、作物も収穫できますようにとお願いしたのだろう。
今では高齢者が多くなり、年々登る人も少なくなってきているそうだ。それでも、毎年祭の日には、数人で雷神様までの道をきれいにし、雷神様に手を合わせている。自然災害の恐ろしさは、今も昔も変わることはないということだろう。
【写真 平田春男 文 長瀬谷百合子】
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