BOON文化シリーズ
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BOON 文化シリーズ 2

  -奥会津- 森に育まれた手仕事

 

手仕事の環境

                      新垣幸子
あらがき さちこ
八重山上布保存会会長
日本工芸会正会員

 物は即文化ではない
 人間の生活との
 関連において
 文化と呼ぶ

 平成七年、初めての個展を東京で開かせていただいた際、昭和村の方がわざわざ訪ねて来られて挨拶を交わしたのが、ご縁の始めでした。それ以後双方の地を互いに訪問し合うような交流がなされて、今日に至っているわけですが、北の雪国と南の熱帯地が、恵みの苧麻糸で結ばれたということも、不思議な感動を抱かせます。

 苧麻は、かつて本土でも多くの地域で織られていて、昭和村の苧麻による越後上布の名声が、広まれば広まるほど需要の多様化を生み、また封建制や問屋の往来等によって工芸の陸続きがなされ、作り手にも精練さが求められるようになり、次第に分業化へと進んでいきます。これは多くの手工芸に見られるパターンで、昭和村では、先ずその素材の秀逸さが着目され、苧麻栽培に専念しなければならなかったのでしょう。しかし、本来、手工芸は完成された形で自ら使用するために生まれてきたもので、しかも、その土地の気候風土に育まれた、天然の素材を使ってはじめて地方工芸としての特質を備えていました。今回、交流の発端となった一本の苧麻糸といえども、それぞれ性質の異なるもので、昭和村では地元の苧麻糸を使って、手工芸としての村起こしをめざそうとの気運が高まっていると聞いています。

 事情は少し異なりますが、石垣島に於いても、政治や産業構造の変化等によって上布の歴史もさまざまな変遷を経てきています。

 琉球王府時代、八重山には人頭税制度が敷かれ、各家庭で苧麻十坪、藍六坪、の栽培が義務づけられて、御用布、貢納布として織らされていました。それは明治三十六年まで実に二六六年もの長きにわたり、その間に織機の改良や染色法の合理化等も加わって八重山上布が完成されたと言えるでしょう。

 しかし、一方、古くから伝えられた海ざらしや、手間暇のかかる括り染めなどは、人々の間からほとんど姿を消してしまいました。

 その後、時代の波に翻弄されながらも、産業としての上布織りは続いてきましたが、戦後盛んになったパイン産業に現金収入を求めて、女性達の手は取られ、機の音さえかすかに聞える程になってしまいました。

 昭和四十年後半からようやく、市の事業として、毎年織手の養成がなされ、海ざらしや、括り染めの復活、植物染料の開発など、郷土の工芸文化に対する意識も、徐々に高まってきましたが、今度は糸の績み手が高齢化し、後継者育成も思うように進まず、年々着尺用の手績糸の入手が困難な状態になってきています。 

 いつの時代も、時間や忍耐力を要するものは敬遠されがちですが、手仕事というものが、常に弱い部分に細々と支えられていることを痛感させられます。それでもなお受け継いでいかなければならない手仕事の伝統とは、いったい何でしょうか。

 先に記したように、手工芸は生活の中から生まれました。そして、それを生業とする者が出て、一段と優れたものが出来る。その「物」はたしかに作り手が絶えた後も残ります。しかし物は、そのものにおいて即文化ではありません。それが人間の生活との関連において文化と呼べるのです。しかも作り手と作り出されたものとの関係が密接に連ながっていればいるほど、人間の文化としての意義は高くなります。文化( Culture)という語が耕す( Cultivate)という語と語源を同じくするゆえんでしょう。

 しかし一人の人の作る時間というのは無限ではなく、作り出される物も同一ということがありません。それが手作りの特質で、それは作り手の生き方の巾を感じさせます。それでも時代とともに生きてゆく人々の作り出したものである以上、どこかに統一された何かがあるはずで、それが過去、現在、未来へと連なった形でとらえたものを伝統というのではないでしょうか。

 そしてそれらを集約し、研鑽を重ねて、より巾の広いものを仕上げてゆこうとすることが継承であり、従ってそれは、先人の単なるコピーではなく、今、常に生きて働く人の行為と言えるでしょう。そう信じつつ、手仕事にこだわり続けています。

 昭和村を訪れたとき、石垣島では一番花の少ない盛夏だというのに、木々や草のさわやかな緑、色とりどりの花が視界に広がっていました。赤松や白樺林の美しさ、野道を歩きながら手もかじかむ程の冷たい泉水をすくい飲む。

 一瞬、堀辰雄の『美しい村』の一節を思い出しました。

 このような環境の中から生まれる手仕事はいかに健康的で、安らぎを与えてくれることだろうか。

 多くの産地が、商業ベースに走るあまり、手仕事と生活が引き離されてしまったのに比べ、昭和村の苧麻栽培や織りが、農業と手仕事として、今なお暮らしの中で有機的に結びついている。それは「常に良い素材が身近にある」ということで、それだけで豊かな自然環境に恵まれた、良い織環境ではないでしょうか。

 織の仕事に携わる者の一人として、生活と仕事、そして心情が深く結びついた手仕事を、今後も追求していきたいと、つくづく感じさせられました。 

<続きは、本をお買い求めの上ご覧下さい>




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