10数年前にもなるが、精進料理の調査をしていて、西会津を中心とした地域に分布する海藻の練り製品「エゴ」に注目した。
阿賀野川沿いの町村に広く分布する郷土料理である。ところが江戸時代の料理書にはほとんど登場する事はない。会津の古い記録にも登場してこない。標本件数がそんなに多くないので確かなことはいえないが、それでも江戸時代の山都町や西会津周辺の記録(主に仏事)の賄い帖には登場してこない。
どうしてなのだろうかと首をかしげるが、理由は不明のままだ。案外会津に普及したのは新しい時代なのかもしれない。
このように古い時代の料理記録には謎めいたことがたくさん存在する。
明治元年に編纂された『水産事項特別調査』と言う報告書によれば、エゴ草は日本海沿岸から北九州一帯が主産地であり、この一帯の内陸部に植性も分布すると言われている。会津も阿賀野川沿いの川を遡るかのように分布しており、ある地域を境に、パタリと分布が止まる。エゴの道は塩の道でも有る。
長野県でも、日本海に至る姫川の川沿いに分布が広がるが、それも大町を越えた穂高地方までで分布は止まる。会津でも大沼郡三島町で分布はぴたりと止まっているし、山都町周辺は喜多方の西手の山添で分布が止まる。残念ながら何時頃から会津の北西部一帯に分布したのかは謎のままである。
又北九州の博多では「おきゅうと」という名で呼ばれている。朝豆腐売りならぬ「おきゅうと」売りの声で目がさめるとも言われ、市民の間に無くてはならない郷土料理として存在している。
|