金山町で、懐かしい風情を漂わせる菓子に出会った。「山椒ゆべし」という保存できる餅菓子である。
これは実に不思議な形をしている。
ネコの背のように丸めた20センチほどの細長い上部に、深い2本の筋が刻まれている。これを薄く切って、軽く火にあぶって食すのだが、切って初めて2本の筋によって刻まれた形の意味が分かる。
蓋松の形をしていたのだ。
金山町では古くから祝言の膳に必ずつけられたという祝いの菓子だという。物がなかった時代、白いかまぼこと併せて紅白を表現し、蓋松をかたどって祝う気持ちを込めたのである。
独特の形はそのまま引き継がれ、現在も正月には必ず用意して年始客をもてなす大切な菓子だ。
挽きたての山椒の粉を使うのが大事で、実がはじけた皮だけを乾燥させて保存しておく。12月になって農作業から開放された一家の主婦は、正月用の食の一つに山椒ゆべしを作るところが多い。
もち米とうるち米を混ぜた蒸し菓子で、寒い冬に山椒を食べてからだを暖め、風邪を引かないようにと願いも込めたことだろう。辛い山椒も、甘みのある菓子に入れると子供も喜んで食べる。先人の豊かな智恵と技の産物である。
久しぶりに囲炉裏に座って、山椒ゆべしが焼けるのを待った。
薄く切ったゆべしは、炭であぶるとかすかにふくらんで焦げ目がつく。
蓋松がいのちを得たようだ。
あつあつをほおばると、馥郁とした山椒の香気が広がる。
囲炉裏で焼く山椒ゆべしは、金山町の食を象徴しているかのようだ。 |