いのちの継承
−会津の食から−
鈴木真也
●食から振り返る歴史●
vol.1 「飢餓」
vol.2 生き延びるための飽くなき挑戦
vol.3 下級武士たちの 食生活
vol.4 北前船の隆盛期(1)
vol.5 北前船の隆盛期(2)
vol.6 松尾の梨
vol.7 豆腐
vol.8 鯉
vol.9 芋煮
vol.10 鮭
vol.11 鯛
vol.12 鶴
vol.13 武士料理の料理人の流れを汲む人
vol.14 鮒
vol.15 こづゆ(重)
vol.16 器
vol.17 小笠原流
vol.18 日本奥地紀行
vol.19 海鼠(なまこ)
vol.20 蕎麦(麺食)
vol.21 婚礼料理
vol.22 消えた料理
vol.23 卵
vol.24 精進料理-エゴの分布-
vol.25 幕末検見日記
vol.26 東遊雑記
vol.27 精進料理 その1
vol.28 奥会津の精進料理 
その1
vol.29 精進料理 その2
vol.30 江戸前の鮨 登場
vol.31 会津武家料理復元記
vol.32 会津の食を訪ね歩いて<栃けえ>
vol.33 山椒ゆべし
奥会津書房の出版物
電子出版
新聞掲載コラム
 
会津の食を訪ね歩いて<栃けえ>

vol.32

 ひょんなことから、奥会津の三島町・昭和村・金山町商工会の地域振興の仕事をお手伝いすることになった。私も20代後半から数年間を柳津町で過ごしたが、この地域には様々な思い出とともに、何かやり残した宿題を置いてきたような気がしてならなかった。

 この地域は、長引く不況と日本の経済成長から、長い間取り残されたままであったのではなかろうか。 戦後の只見川総合開発計画やその後の大規模な開発も、道路の整備も、結局この地域に本当の意味での豊かさをもたらすことはなかったような気がする 。

 地域の本当の豊かさとは何なのか。このことが、取材を通じて私の頭から浮かんでは消え浮かんでは消えして、離れる事がなかった 。

 金山町のある農家を取材して「栃けえ」という誠に不思議な食べ物に出くわした。色は黄色である。それも鮮やかな黄色、これが食べ物なのだろうかと目を疑った。匂いをかいで見ると、かすかに硫黄臭がする。恐る恐る味をみてみる 。なんとも不思議な味である。今まで味わったことのない味であった。

 「栃けえ」には広大な広葉樹林から贈られた恵み、それも明らかに縄文の臭いがした。心の中に、思いがけない料理に出会った感動が静かに沸いていた。

 秋、山に行き栃の実を拾うことは、おそらく縄文時代から同じように続いてきたに相違ない。気の遠くなるような長い歴史と人々の生活の営みのなかで、栃の実のあくを抜く知恵を、自然に習得していったのだろう。

 戦後の高度成長期にこのような料理は省みられなくなるが、蕎麦をはじめとしてこれらの伝統食に、再び注目が集まり始めている 。

 この料理を作っていただいた金山町のおばあさんも「健康も含めた自分らしさや、自分を取り戻したい」というような気持ちから、自然と昔の料理を思い出し作っているのだと語っていたのが印象的であった。

 人間らしさを取り戻す動きの中で、食事を作るという基本的な営みが省みられ始められていることに注目したい。

 


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